厚木事件の首謀者小園、刺客の佐藤、会添の安藤と役者が揃った。
無言の小園とは違って兵士たちは民間人の安藤に自分たちの立場を話しかけてくる。
「俺たち兵士はみんな天皇陛下のために戦ったんだ。沢山の戦友たちは、みな天皇陛下万歳を叫んで死んだんだ。それが軍人教育であり、日本人としての忠誠心だった。
それが敗戦と聞いた時、天皇の国、日本が消える。俺たちの体に流れている日本人の血の本源がなくなるんだ」
小園の顔をチラリと見ながら(小園の心情であろう、小園をかばいたい思いがあるのだろ)
「兵士はここ厚木から二度と帰還できない神風を飛ばし、敵艦めがけて突っ込んで行ったんだ。だから俺たちは戦死した戦友のためにも最期まで戦うんだ」
安藤はうなずいて、
「兵隊さんの気持ちはよく分かる。俺も日本人の一人だ。確かにアメリカは憎い。しかし陛下はこれ以上戦争はやめろとおしゃったんだ。陛下は忍びがたきを忍べとおしゃったんだ」
しかし安藤の説得が通じるはずも無い。
「お前なんかに、おれたちの気持ちが分かるか」
兵士の一人が立ち上がる。
安藤も気が強い。
「なに!お前らは負け犬のくせに・・」
と言って口をふさいだが、
「なにおこの野郎!」
と言うや安藤に詰め寄る兵士もいた。
安藤も立ち上がり、酒の勢いもあって外に飛び出した。
「このやろー、てめいがたれた糞の始末もしやがんねいで」安藤はこうなると口が悪い。
掴み合いになるところへ佐藤が飛んできて二人をなだめて席に戻す。
再び小園の横に席を取り酌を勧める。
安藤の音頭でまたもや浪曲が飛び出し、みなこれに和して手拍子よく歌いだす。
次第に夜もふけて一同ますます杯を傾け威勢をあげる。
佐藤と安藤は小園を持ち上げ、歴戦の武勇談を引き出して盛んにもてはやす。
小園も機嫌を取り戻し安藤のおせいじに紅顔をほころばせ、
「安藤さん、分かるか。俺たちの本心を。見ろ彼らも純真なんだ」
続いて持論が吹き出る。
「アメリカは必ず天皇陛下を殺す。天子様が悪いのでは無い。こんあことになってしまった我々が悪いのだ。それに変わって責任をお執るりになろうとされているんだ」
安藤も武士の流れを汲むサムライの血が流れている。
「司令の気持ちは私と同じです。私も武士の端くれでして」
(安藤が後に運命の綾に引きずられて、事もあろうに天皇陛下のご安泰を願って奇蹟の行動を起こすことになろうとは。
安藤の心中に、小園の魂が乗り移っていったとは、この時には知るよしもないが)
コップ酒で一気に飲み干して返杯が安藤に来る。
「いやーもうーたくさんですよ。司令はお強いんですね。私はまいりました」