2016年8月11日木曜日
佐藤到着
安藤はあせる気持ちを抑え、
「なんでこう遅いんだ」とはき捨てるように言った。
佐藤が到着したのは7時を回っていた。
「大安組か、社長はいるか」
と大声が響き渡ってきた。
「佐藤大佐、安藤です。遅いじゃなですか!!」
佐藤は傘の下から顔を見せ、息を切らせてやってきた。
「やーすまん。毎度遅くてすまん。ちょっと話しがある」
二人は近くの小屋に入って
「大佐、なんですか。俺たちはすでに集まって作業を待っているんです」
佐藤の様子がおかしいのを悟った安藤は薄明かりの中、顔を近づけて覗き込んだ。
「実はな」と小声で話し出した。
「あれから海軍省で激を交わしてきたんだ。しかし・・」一寸間をあけて、
「約束の金が貰えなかった・・すまん。この仕事は・・」
「中止しろと言うんですか!」
安藤が声を荒げる。
「そうなんだ。この仕事をやっても払える見込みも無い。俺は大切な任務が果たせない」
佐藤は蒼白な顔を見せてはき捨てるようにうつむきながら
「仕事を中止してくれ、俺の最後だ」
と言って、懐から拳銃を取り出した。
「おいおい。一寸待ってくれ。死ぬのは待ってくれ」と、
安藤は佐藤の腕を取って抱きかかえた。
「佐藤さん。中止と言って後を誰がやるんですか!」
安藤は声を高めて食い入るように佐藤をにらみつけた。
「誰もいない・・!」
佐藤はここは一か八かだ。と安藤を見上げて
「俺は払えない。しかしどうにでもしてくれ。社長に任す」
一途の希望はこの場で安藤が作業をしてくれるのを祈った。
「佐藤さん待っていてくれ。相談してくる」
佐藤をその場に残して暗闇に消えていった。
金払いの悪いのは今に始まったことではないが、桁違いの大金だ。
安藤は内心こんなこともあろうと予測をしていたが。安藤は熊野らを集めて、
「遅くなったが、今大佐が来て・・金が払えないと言い出した」一同は顔を見合わせた。
「作業を中止しろと言っている」
真っ先に熊野が口を切った。
(熊野益次。私はよく可愛がられ肩車をしてもらった彼のぬくもりを感じている)
「親父。誰か他にこれをやるやつでもいるんですか!?」
「いや、いない。そこで相談だ」
「これをやらないと、日本が危ないってことでしょう?」
一息入れて
「そうなんだ。俺はお前らの命を預かっている。危険に身をさらせるのに・・」
「親父。待ってくれ。俺たちは親父に預けた命だ!それよりここで引くわけには行かない」
「なー皆」と熊野は仲間を見渡して言った。
「親父。金は親父が損すればいい。俺たちは命の一つや二つ、どうでもいい」
「どうだ皆。そうだろ。やろうじゃないか!?」熊野が声を高めて言い切った。
「そうだそうだ。これまで親父に世話になってきた。いまさらけちなことは言えない!」
「親父。聞いたと通りだ。アメリカのやつらは着陸できない。
俺たち以外に誰がやるってんだ!」
安藤は熱いものがこみ上げてくる。
「そうか。分かった。ここで引くわけにはいかない。その気持ちは俺も同じだ」
「みんなやってくれるか!」
「親父やろう!!」と、
歓声が上がる。
腹は決まった。